資産運用コラム

社債の種類及びメリットなど

ANAHD、リキャップCB発行で機体購入へ
企業は事業を推進するために資金を調達しますが、その手法は多々あります。2017年9月1日の日経新聞「ANAHD、CB発行1400億円調達 機体や自社株買いに」 によるとANAホールディングス株式会社(以下、ANAHD)がリキャップCBという資金調達方法を用いて機体を購入するのを期に、今回は転換社債並びにリキャップCBのメリットとデメリットを解説します。

社債の種類とは?
はじめに、企業の資金調達には株式などで資金調達を行うエクイティファイナンスと社債などで資金調達を行うデッドファイナンスの大きく分けて2種類があります。そして、今回取り上げる社債には大きく分けて4種類の社債が存在します。

普通社債(SB)とは?
まず1種類目の普通社債(Straight Bond:SB)の場合、企業が発行した普通社債を投資家が購入することで資金を調達します。そして償還期限が来た時に、元金が利子とともに投資家へ償還されます。また、償還期限は3年、5年、10年など後述するコマーシャルペーパーに比べて長期間に設定されています。

転換社債(CB)とは?
2種類目の転換社債(Convertible Bond:CB 以下、転換社債)では、転換社債型新株予約権付社債と呼ばれることもあり、転換社債はその名の通り社債を新株に転換できます。したがって、普通社債に対して転換社債は普通社債の仕組みを有しながら株式の仕組みも有する特殊な社債です。ただし、転換社債が有する株式の仕組みを投資家が利用できるのは一定の条件下のみで詳細は後述します。

コマーシャルペーパー(CP)とは?
3種類目の社債、コマーシャルペーパー(Commercial Paper:CP 以下、コマーシャルペーパー)は短期社債とも呼ばれます。コマーシャルペーパーの償還期限は1ヶ月や3ヶ月のものをはじめ通常2年未満であるので、上述の普通社債の償還期限と比べて短く設定されています。そのため、企業は運転資金などの短期資金を調達することを目的にしてコマーシャルペーパーを発行します。

ワラント債とは?
4種類目の社債、ワラント債は発行企業が設定した一定の期間内に一定の条件で新株予約権(ワラント、warrant)を行使できる社債です。

ワラント債と転換社債(CB)との違いとは?
ワラントとは新株予約権のことで、上述の転換社債と似ていますが相違点があります。転換社債は社債を新株に転換するため追加資金を払う必要も無く、社債も残りません。しかし、ワラント債は社債を新株に転換するのではなく新株を購入するので追加資金が必要になり、社債は手元に残ることになります。

転換社債(CB)とは?
転換社債(CB)のメリットとは?
次に転換社債のメリットを発行企業側と投資家側に分けて解説します。

転換社債(CB)の発行企業側のメリットとは?
転換社債を発行する企業側のメリットは低金利で資金を調達できることです。転換社債は新株への転換権を投資家にリターンとして与えるので、その引き換えに企業は金利を低く抑えて転換社債を発行し資金調達ができます。

また、実際に転換社債の金利はゼロであることが多く、金利がゼロのことを指してゼロクーポンと呼ばれています。現在、日銀のマイナス金利政策などの金融政策によって、社債並びに銀行からの借入金の金利が低くなっていますが、それらの金利を転換社債の金利は下回ります。

転換社債(CB)の投資家側のメリットとは?
では、次に転換社債を購入し投資する人たちにとってのメリットは何でしょうか。それはリスクヘッジです。

転換社債は償還期限内に株価が一定の価格に達した時に投資家が転換権を行使し、転換社債と新株を転換できることを転換社債の発行企業が設定しています。しかし例えば、投資家の保有する転換社債の発行企業の株価があらかじめ設定されている償還期限内に一定の水準まで上昇しなかった場合には、投資家の保有する転換社債は償還され元金を取り戻すことができます。また、転換社債は発行価格より低めの価格で購入することができる場合が多いため、償還期限内に転換社債を売却してもキャピタルゲインを獲得することができます。

したがって、転換社債に投資する人たちは、転換社債を発行した企業の株価が上昇せず株式に転換できないリスクを社債という比較的安全な資産でヘッジすることができるのです。

転換社債(CB)のデメリットとは?
次に転換社債のデメリットを発行企業側と投資家側に分けて解説します。

転換社債(CB)の発行企業側のデメリットとは?
転換社債を発行する企業のデメリットは、将来に転換社債が新株に転換されて生じる株主利益の希薄化に投資家が嫌気をさし株価が下落するリスクです。実際に企業が転換社債を発行することを公表すると、その企業の株価は下落することは大いにあります。それは、転換社債を発行する企業の株式を保有している既存の投資家(既存株主)が株主利益の希薄化を懸念し、株式を売りに出しているからです。企業はその出資者である株主の期待に応えるために株主利益の向上の義務を負うという原則がありますので、転換社債による株主利益の希薄化リスクを懸念して希薄の最小化に努めるべきです。

転換社債(CB)発行企業の既存投資家側(既存株主側)のデメリットとは?
転換社債を発行する企業の株式を保有している既存の投資家(既存株主)が被るデメリットは上述の通り、将来に株主利益が希薄化するリスクとそれに伴う株価下落で被る株式売却益(キャピタルゲイン)の減少です。

株主利益の希薄化とは?
また、株主利益の希薄化とは具体的に以下の効果を指します。

一株当たりの純利益(Earnings Per Share:EPS)の低下による配当金(インカムゲイン)の減少
株式保有比率の低下
企業倒産時における残余財産分配金の減少

転換社債(CB)のデメリット対策方法
転換社債を発行する企業や既存投資家(既存株主)が被るデメリットは株主利益の希薄化に由来するものだということがわかりました。そこで株主利益の希薄化が生じないようにする対策を一部示します。

転換社債の発行と同時に自己株式の購入を実施するリキャップCB(詳細は後述)
株主に配当金が支払われない無配当株式への転換
議決権が制限された議決権制限株式への転換
議決権が全くない無議決権株式への転換
配当や残余財産の分配が普通株式よりも後回しになる劣後株式への転換

1つ目のリキャップCBの詳細は後述しますが株主利益の希薄化効果を、場合によってはほとんど防ぐことができる対策方法です。

2〜5は転換社債を種類株式へ転換します。リキャップCBとは異なり株式利益の希薄化効果を一部防ぐことができる対策方法です。例えば2の無配当株式への転換する方法をとった場合は、前段の株主利益の希薄化効果で示した配当金(インカムゲイン)の減少を防ぐことことができるのです。

リキャップCBとは?
リキャップCBの定義とは?
では次に、リキャップCBと呼ばれる特殊な転換社債について解説します。リキャップCBとは、企業が転換社債を発行して調達した資金を自社株買いに使うことを言います。リキャップCBのリキャップとはリキャピタライゼーション(Recapitalization)の略で、企業の資金調達源を株主資本から負債に再構成することを意味しています。

リキャップCBの種類とは?
リキャップCBは企業がリキャップCBで調達した資金の使途によって分類することができます。

また、リキャップCBを「ROEを改善する小手先の財務改善」と問題点を指摘して批判する意見もありますが、この批判は一面的な批判だと言わざるを得ません。なぜなら、リキャップCBの資金使途によって分類されたケースによっては問題点を拭えきれずその批判が当てはまりますが、他のケースではその批判は当てはまらないからです。したがって、自分と関わるリキャップCBは健全な手法なのか否かを資金使途によって判断することが重要です。

下記のTableとChartでは、リキャップCBを発行額と資金使途別の割合によって分類します。

Table リキャップCBの分類

Chart 資金使途別の割合によるリキャップCBの分類

事業投資が目的のリキャップCB
Tableによると、リキャップCBはその発行額に占める自社株買い額の割合が1%〜50%の場合、そのリキャップCBを発行した企業の主な目的は事業投資だと考えられます。例えば、実際に企業が事業投資を主な目的にリキャップCBを発行するケースでは、工場の生産設備の購入などの設備投資、事業強化のためのM&Aなどが資金使途として挙げられます。実際にANAホールディングス(ANAHD)では、リキャップCBで調達した資金の内50%を「ボーイング787」など機体購入に割り当てると報じられています。

またChartによると、リキャップCBによる資金調達額の50%以上を設備投資に振り向ける企業を事業投資重視型とし、丁度50%を設備資金に投資する事業投資均衡型と細かく分類することができます。特に事業投資均衡型では転換社債の発行で生じる株主利益の希薄化のデメリットを自社株買いによってほとんど防ぎながら、低金利で資金調達ができるという転換社債のメリットを享受できる上手なスキームです。

リキャピタライゼーションが目的のキャップCB 「ROEを改善する小手先の財務改善」にあたるケース
次にTableによると、リキャップCBはその発行額に占める自社株買い額の割合が51%〜100%の場合、リキャップCBを発行した企業の主な目的は低金利でリキャピタライゼーションを実施することだと考えられます。つまり、低金利でROEを改善するなどの目的を持ったリキャップCBの発行類型で、いわゆる「ROEを改善する小手先の財務改善」がこれに当てはまります。

またChartでは、リキャップCBによる資金調達額の51%以上を自社株買いに振り向ける企業をリキャピタライゼーション重視型とし、100%を自社株買いに投資するリキャピタライゼーション積極型と細かく分類することができます。リキャピタライゼーション積極型のようにリキャップCBによる資金調達額の全額を自社株買いに当てれば、転換後の株主資本を全て負債に再構成したことになるのでROEを手っ取り早く、且つ低金利で改善できるスキームです。このスキームは近年のROEブームに乗じた企業が頻繁に採用しました。

リキャップCBのメリットとは?
次にリキャップCBのメリットを発行企業側と投資家側に分けて解説します。

リキャップCBの発行企業側のメリットとは?
リキャップCBを発行する企業のメリットは株主利益の希薄化を防ぐことによって株価の下落をできるだけ防ぐことができるということです。つまり、リキャップCBを発行する企業が通常の転換社債で生じるデメリットをできるだけ防ぎながら、低金利という通常の転換社債のメリットを享受することができるのです。

リキャップCBの投資家側のメリットとは?
リキャップCBの投資家のメリットは、先ほどの繰り返しになりますが自社株買いがされることによって株主利益の希薄化というデメリットが生じることをできるだけ防げるということです。

自社株買いを伴わない通常の転換社債では、上述したように転換社債が株式に転換されることによって新たな株式が発行された結果、既存の既存投資家(既存株主)の利益が希薄されるというデメリットが生じます。しかし、リキャップCBが使用されればこのデメリットが生じなくなります。

リキャップCBのデメリットとは?
次にリキャップCBのデメリットを発行企業側と投資家側に分けて解説します。

リキャップCBの発行企業側のデメリットとは?
リキャップCBを発行する企業は通常の転換社債ほど大きいデメリットを被ることはありません。

リキャップCB発行企業の既存投資家側(既存株主側)のデメリットとは?
リキャップCBの既存投資家側(既存株主側)もリキャップCBを発行する企業と同じく、株主利益の希薄化をできるだけ防いでいるので通常の転換社債ほど大きいデメリットを被ることありません。

リキャップCBの有用性
転換社債並びに転換社債を応用したリキャップCBを解説しました。特にリキャップCBは既存投資家(既存株主)利益の希薄化を最小限に留めつつ低金利で資金調達できるという点で優れた資金調達手法であり、CFOなど企業の経営者だけでなく投資家も注目すべき手法です。